時さえ忘れて
2023.08
カラスが何かに群がっていた。戻ってみると、イノシシだった。死んだばかりだった。身体に空いた穴に、血が溜まっているのが見えた。
今日はキツネはいなかった。カモシカもいなくなっていた。細い骨が数本残っているだけだった。誰かが片付けてしまったのか。すぐ傍に、藪の中へと続く踏み跡があった。少し入ったところに、脚が一本だけあった。それ以外は何もなかった。蛆は静かなものだった。数も減って、死んでいるものもいる。なん...
キツネが来ていた。気づかれないように息を潜め、遠目に見る。昨日カモシカがいた場所には、抜け落ちた毛だけがこんもりとある。そこから少し離れた場所にキツネがいる。あそこまで口で引きずっていったに違いない。もっと見えるところまで、気づかれないように小さい歩幅で近づく。キツネが力強く肉を...
昨日の夕方よりも痩せ細って、体はどす黒くなっていた。蛆はぬめりのある一つの液体のようにだらりと広がり、所々で地面から湧き上がるように蠢いている。その上を黒い昆虫がテクテク走り抜けていく。角はなくなっている。顔はますます黒い。顎のあたりは骨が見え始めていた。あばらも同じく。まるで、...
カモシカが死んでいた。毛は抜け落ち、皮膚があらわになっていた。夥しい数の蛆が湧き、ざわざわと蠢いていた。蝿がたかり、蜂も来ていた。蛆を食べに来ている虫もいた。黒くなった顔。角。臭い。呼吸が小さくなる。
一緒に歩いたオニヤンマは、草の上でバラバラになっていた。アリが食べてくれたんだと思う。ありがとう。
茶の間で小一時間大の字になって昼寝をしてムクっと起き上がると、網戸の向こうにオニヤンマがいて、こっちを見ていた。飛びながらこっちを見ていた。何かを伝えにきたのかと思い、外に出た。
山で、熊と見つめ合った。
大きな枝が倒れて、登山道を塞いでいた。近寄ってみると、グミの木だった。ははーん、察しがついた。グミを食べるのに夢中になった熊が、枝を折っちゃったんだろうな。枝にしがみついて食べていたに違いない。どれどれ、一つつまむ。こりゃ美味い。もう一つつまむ。おお、これはちょっと渋い。でも美味...
猪苗代登山口〜弘法清水小屋〜山頂〜翁島登山口
たぶん、昨日の夜に入ってきたんだろう。部屋の中に、淡い緑色の羽したカゲロウが窓にとまっていた。優しく羽を掴んで、外に逃してあげた。朝の青空に向かって、高く高く飛んでいった。