昨日の夕方よりも痩せ細って、体はどす黒くなっていた。蛆はぬめりのある一つの液体のようにだらりと広がり、所々で地面から湧き上がるように蠢いている。その上を黒い昆虫がテクテク走り抜けていく。角はなくなっている。顔はますます黒い。顎のあたりは骨が見え始めていた。あばらも同じく。まるで、骨だけ残して、ゆっくりと地面に吸い込まれていっているようだ。
Keisuke Suzuki
- キツネが来ていた。気づかれないように息を潜め、遠目に見る。昨日カモシカがいた場所には、抜け落ちた毛だけがこんもりとある。そこから少し離れた場所にキツネがいる。あそこまで口で引きずっていったに違いない。もっと見えるところまで、気づかれないように小さい歩幅で近づく。キツネが力強く肉を食いちぎっている。樹々の間から差し込む朝日が、その姿を照らしている。道の向こうから、もう一匹キツネが現れた。つがいなのか何なのか、親しい雰囲気だ。肉を食べていたキツネが、もう一匹にその場を譲り、藪の中に消えていった。二匹のキツネが去ったあと、地面は大量の蛆で波打っていた。キツネがカモシカを引きずったのは、蛆を払うためだったのかもしれない。そのせいで、地面広範囲にわたって大量の蛆が散らばり、地面全体が波打っていた。蛆は行き場が分からなくなってしまったようで、必死にもがいている。アリが蛆を連れ去っていく。同じ姿の黒い昆虫もたくさん来ていて、何がしたいのか、あちこち忙しなく走り回っている。風向きで臭いが鼻をつく。その度に、呼吸が小さくなる。カモシカは昨日よりも骨があらわになっていた。肉もほとんどついていない。キツネに引きずられ食いちぎられたおかげで、原型をとどめていなかった。ひょっとすると、キツネの前にも誰かが来ていたのかもしれない。しっかりとした背骨。浮き上がる肋骨。下顎の骨は外れていた。脚の肉は薄くて食い難かったのか、一本だけ肉がついたまま残っていた。払い落とされずに体についたままの蛆たちは、どす黒い皮膚の上で、干からびたみたいに弱々しかった。
- カモシカが死んでいた。毛は抜け落ち、皮膚があらわになっていた。夥しい数の蛆が湧き、ざわざわと蠢いていた。蝿がたかり、蜂も来ていた。蛆を食べに来ている虫もいた。黒くなった顔。角。臭い。呼吸が小さくなる。
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