お店を閉めてからのこと 2
ここ数週間くらい、ありがたいことにお店は連日盛況で、人がたくさん来てくれるからでしょうか、「あれ?俺なんで店閉めるんだっけ?」と勘違いしてしまいます。こんなに人が来てくれて、みんなでわいわい楽しく笑い合っているというのに。閉店するのか、俺は。
ちょっと前までは、お店を開けても、何時間もお客さんが来ないことが当たり前でした。ひとりで珈琲を飲みながら、何時間もずっと読書をしていた日々が長くありました。そんなとき、ふと、窓の外を眺めると、自分だけが取り残されているような気持ちになりました。寂しさだったり、焦りだったり、苛立ちだったり、怒りでさえありました。そんなときに、ガチャっと扉が開いて、ふらりとやってくる、いつもの人や、はじめましての人に、僕はずっと救われてきたんだと思います。やって来るのか来ないのか、今日は誰が来るのか、はたまた誰も来ないのか。待つことが仕事でもありました。
人がたくさん来てくれて賑やかな日は、わいわい楽しいけれど、一人ひとりとちゃんと話すことが出来ません。売上は良いけれど、なんだか気分は良くなかったりします。静かな日であればお互いじっくり話すこともできるけど、売上げとしてはどうなのかなあと悩ましかったり。結局、どちらが良いとも言えない。きっと、色んな日があるから面白い。全部含めて、良しとしよう。そんな風に思います。
さて、これから前回の続きを書きます。お店ではもう話していることですが、僕のことをあまり知らないという人に向けて、僕が日ごろ大事にしていることを、まず書かせてください。そうじゃないと、話しの流れが見えてこないと思いますので。またしても長くなってしまいますが、どうぞお付き合いください。
僕は歩くことが好きです。歩くことが、僕という人間の土台を作っていると思っています。そんなたいそうな土台ではありませんが、とりあえず、歩くことが土台になっています。 歩くようになったきっかけは、考ることが好きだったからです。休みの日でもお店のことをずっと考えています。でも、自宅でもんもんと考えていると、だんだんと思考が停滞してきて、さらには身体も鈍って具合が悪くなってきます。じゃあ、散歩しながら考えるか、その方が気分転換にもなりそうだし。それが歩くようになったきっかけです。たった、それだけのことです。
実際に歩いてみると、家の近くに自然がたくさんあって静かだというのも大きいかもしれませんが、とっ散らかっていた考えがまとまっていくし、新しい発想が浮かんできたりして、なんだか調子が良かった。そして何より、気持ちが良かった。身体も喜んでいるように感じられる。だから単純にクセになってしまいました。考え事がしたいときは、散歩に出かけるようになりました。それが歩くようになったきっかけです。で、いつしか考えることよりも、歩くことが目的になってしまいました。自宅がある猪苗代までお店から歩いて帰ってみたり、猪苗代湖を一周してみたり。登山も言うなれば歩くことです。歩いていると、いろんなことに気づけて、楽しいんです。
大事にしていること二つ目は、水汲みです。僕は日常的に水を汲みに行っています。だいたい二日に一回くらいの頻度です。飲む用だったり、珈琲を淹れたり、ウイスキーの水割りやお湯割りを作ったり、ご飯を炊いたり味噌汁にも使っています。水汲みに行くときは、基本的に車は使いません。歩きと電車で汲みに行きます。空のペットボトルを数本、登山用のザックに入れて、歩いて駅まで行って、電車に乗って、電車を降りたら水場まで歩きます。ザックからペットボトルを取り出して、ジャバジャバ流れている水を汲んだら、「今日もありがとうございました」と水場に感謝を言って、重くなったザックを背負ってまた駅まで戻ります。この時季は水を汲んでいると、濡れた手が冷たい風に当たって、かじかんで痛くなります。ゔゔゔゔっと息が詰まるほどジンジンしてきます。でも、なんだかそれも楽しいというか、愛おしいというか。駅まで戻ると、電車がやってくるまで静かな待合室で本を読みます。この時季は昔ながらのストーブが置かれていて、その前で暖まりながら本を読みます。でも、週末に水を汲みに行くと、週末は無人駅になってしまうため、ストーブはなくて、底冷えするような寒さの待合室で電車を待つことになります。それもなんだか楽しいんです。この前は電車の時間を勘違いしていて、本を読んでいたら電車が一本行ってしまったこともありました。ま、いっかと、気を取り直してまた本を読みました。こんなことを、二日に一回、かれこれ二、三年やっています。
水は生きるために必要です。僕は山に登るので、水のありがたみを感じることがよくあります。この前登った飯豊連峰では、この夏の異常な暑さと雨不足が原因で、どの水場もほとんど枯れた状態でした。ポタリポタリと出てくる水を、時間をかけて汲むしかありませんでした。山では水が貴重です。町にいると、水のありがたみをなかなか意識することができません。蛇口をひねれば出てくるし、お金を払いさえすれば無限に出てくるような気にさえなってしまう。でも、それは当たり前じゃない。
水汲みをはじめたのは、水を買い続けることに疑問を感じたことがきっかけでした。ゴミが出てしまうことも嫌だった。そして、なぜ人にとって絶対に必要な水をお金を払って買わなければいけないのか。そう思ったときに、「あ、汲みにいけばいいんだ」とすんなりと思ったんです。汲みにいける水場があるのは、田舎の特権かもしれません。とてもとてもありがたいことです。歩くことが好きな僕は、こうして水汲みにも歩いていくようになりました。
歩いていくことで、気づけることがたくさんあります。山の色を見たり、樹々から季節を教わり、吹きつける冷たい風が不思議と心地よく感じられる日があったり、鳥や虫の鳴き声を聞いて嬉しくなったりします。生きるために絶対に必要なことを、大切にする。水を飲むこと、呼吸すること、食べること。そこを疎かにしない。効率はいらない。時間をかけること。今に集中すること。今を見つめること。僕が大事にしていることは、こういったことです。
こういう人間なので、スマホは持っていません。ネットに繋がっていないガラケーを使っています。なのでSNSもやっていません。スマホ片手にずっと下を向いてる人がたくさんいます。そういう人たちに、「その薄っぺらい板を手放すだけで、自分の人生を取り戻せますよ。とっても簡単です」と教えてあげたいです。まあ、それはいいとして。
前置きが長くなりました。なんとなく、僕という人間が分かっていただけたでしょうか。ちょっとだけでも分かってもらえたら嬉しいです。では、ここから本題です。
お店を閉めてから何をするのか。好きな自然を見つめ、文章を書き、写真を撮ることに決めた、と、前回書きました。そして、それでどうやって収入を得るのか。僕がこれからはじめることは、こうです。
文章と写真を何枚かの紙にして、希望する方に郵送でお届けします。年間購読という形をとらせていただき、月に一回くらいのペースでお届けします。受け取っていただいたら、読んだ感想でも構いませんし、ご自身の近況でも何でも構いません。手書きで書いたお手紙を僕に返して欲しいのです。はがきでも構いません。手書きでお願いしたいのです。送っていただいたら、僕も手書きで返事を書いて、翌月、文章と写真を紙にしたものと一緒に、あなたに送ります。つまり、文通です。僕が日々感じたことや、好きな自然を見つめて書いた文章と写真を送るので、そのときに文通もしませんか、という提案です。
なぜこんなことを思いついたのかというと、以前から、自分の文章と写真を、ネット空間ではなく紙にしたいと常々思っていました。紙に対する憧れのようなものです。そして、今回お店がなくなってしまうことで、今までお付き合いしてきた人たちと疎遠になってしまうことが考えられました。どうしたら今後も付き合いを続けていけるか。そう考えたときに、文通を思いつきました。
インターネットがあれば無料で一瞬で時間もかからずに連絡が取れる時代です。でも、はっきり言って面白くもなんともありません。情緒もへったくれもない。お腹がいっぱいになればそれでいい、栄養が取れるならサプリでいい、みたいなものです。じゃあ、もっと面白くするにはどうしたらいいだろうか。あ、手書きがいいんじゃないか。時間と手間がかかるところがとてもいい。切手を貼って送るのも楽しそう。届くまでに時間がかかるところもいい。相手を思う時間がある。そう思ったんです。歩いて水を汲みにいくような奴が思いつきそうなことだと思いませんか。
これが、僕がお店を閉めてからはじめることです。本日から承ります。年間購読のお値段は、25,000円になります。ご希望の方は、savannaparty@gmail.comまでメールをください。「今、お金がないから一括は難しいです」という方は分割で構いません。僕も財布にお札が一枚も入っていない日がよくあります。前にも書きましたが、お金はあるところにはあるので、ないところがあるのも当然です。ないからといって卑屈になる必要はまったくありません。人生の豊かさをお金のある無しで測るのは無意味です。僕はお金がありません。たぶん、バイトしてる高校生よりないと思います。でも、楽しいです。お金がないとできない、じゃなくて、お金があってもできない、それって面白いと思いませんか。僕、お金がないので、そういうことばっかり考えてます。だからお金ないんだと思います。
年間購読をご希望される方でお店に来れるという方は、お店で直接承ります。お店に来れないという方は、メールをください。あと、お店には来たことがない、僕とも会ったことがない、でも、このblogを読んでいる、なんとなく気になる、やり取りしてみたい、そんな風に思ってくれた方がいらっしゃいましたら、遠慮なくメールをください。ちょっとずつ、ゆっくりやってみましょう。僕も初めてのことなので、不安なところもあります。でも、面白そうだからやってみたい。老若男女は問いません。海外在住の方ともやり取りしてみたい。郵便代が高そうなので、もうちょっといただくかもしれませんが。あ、あと、字が汚いから手書きは苦手です、という方が、もしいらっしゃいましたら、気にしないでください。僕も字が汚いです。というよりも、綺麗汚いという捉え方よりも、個性と捉えた方が面白いです。みんな別々の人間です。字も違って当然です。そう捉えて、気兼ねなく書いてください。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
では、ご連絡、お待ちしております。
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